前を向く価値【蘭拓】
~アテンション~
★腐向け
★神童君のセリフがない
★微シリアス
★2次創作
★神童君が倒れたころのお話し
神童が倒れた。試合中に飛ばされたことが原因らしい。
神童は頭を押さえていた。だから、頭が悪いんじゃないか、命に係るんじゃないか、そういう思いを否定しながら、手術室を見ていた。
ランプが消え、先生が出てきた。
どうやら、命に別状はないらしい。出てきた神童の足にはギプスがはめらてあった。
(頭を打ったんじゃないのか…?なら、良かった…)
これくらいにしか考えてなかった。別に、だからと言って何か起こった訳じゃないが。
でも俺は、確実に、神童がいないという現実に混乱していた。
狩屋に指摘され、初めて気がついた。
今までは、神童が前にいることで安心していた。神童が前にいることで前が見えた。神童はまるで、眩しい光を遮る様にして俺の前に立っていた。
ずっと神童の後ろに立ち続ける…これは、簡単そうに見えて実は結構難しい事なのだ。
神童を追い越さないように、神童において行かれないように。
アイツと肩を並べられる俺でいるんだ、そう自分に言い聞かせてきた。
練習は松風が仕切っていた。練習試合の度に松風は周りが見えなくなる。
松風は、周りが見えていない。何故こいつがキャプテンなんかに…そう思っていた。
そして今日、決勝戦の日、入り口に並ぶと、いつもの様に前を向いた。
前が眩しい。神童がいないからだ。神童がいたことで前を向けた俺は、もう、前を向けない。
「霧野、前を向くド」
「天城先輩…」
「前を向け、霧野」
「三国先輩…無理です。俺は、俺は、前に神童がいたから前を向けた。神童が俺を見てくれる、そう分かっているから前を向けた…でも今は、神童はいない。そんな中で前を向く価値なんてあるんですか!!」
俺は強く怒鳴った。先輩と分かっていて。落ち着け…冷静になれ…そう、
自分に言い聞かせた。
「…霧野。」
俺は顔を上げた。そこに映っていたのは、泣きそうな先輩だった。
「三国さん…」
「今、お前の武勇伝を聴いている暇はないんだ。だが、これだけ言っておく。今、少なくともお前は神童を見れない。でもそれは、霧野がどうか、という話だ。神童は、必ず、霧野を見ている。スタジアムまでは無理でも、テレビで…な…。神童はちゃんとお前を見ているんだ。神童の、霧野を見る目はとても温かいんだ。気付いてやれよ、いい加減さ…」
泣きそうな声で。
そう言って、前を向いた。
声は震えていた。顔もしわくちゃになっていた。でも、笑っていた。
無理に、顔を隠そうとしないで。
神童は…ちゃんと俺を見ていてくれる…それは定かではない。でも、わずかな希望さえあれば、前を向こう。そう神童にも言ったんだ。
前を向こう。価値は…ある。神童がどこかで見守っていてくれる。
だから、前を向いて。
早くこの、操られた世界を、
変えに行こう。