蘭マサ拓のつもり…拓蘭マサじゃないよ…じゃない…じゃ…な…い…5
とにかく、頭の中のモヤモヤもとれたことだし、これで気楽に飯が食えるな。
そう思いながら、食堂に向かって走って行く狩屋を神童と一緒に追いかけた。
*
「お腹…いっぱ…も…食べられな…ぐっ」
飯を食って、そのまま寝ようとした狩屋の頭をたたく。
「も~、なんですかセンパイ~」
「ここで寝るな。風呂も入るんだぞ」
「狩屋…まだデザートがあるんだが…たしか狩屋の好きな苺をメインにした…お腹いっぱいなら無視してまで食べなくても…」
「いいえっ、デザートは別腹ですから!!」
「女子かよ…」
目をキラキラ輝かせていた。さっきの言葉は何だったのか…
「ふふ…面白いな、狩屋は…」
神童が俺に向かって笑顔を見せてくるので、俺は思わず破顔しそうになった。
「あ、ほら…来たぞ///」
「うわぁぁ~~///おいしそ…」
狩屋は目をキラキラと輝かせながらデザートを頬張った。
「狩屋、苺が余ってるぞ~?いらないならもらっちゃお…」
「あ、センパイ!!ダメですよっ。俺は好きなものは一番最後に食べる派なんです!!」
「狩屋はほんとに苺が好きなんだな…」
神童が笑顔でそう言う。
狩屋はちょうど最後にとっておいた苺を食べている所で、俺は心の中で笑った。
「あ…はい…」
「ん?何だ、狩屋。苺が欲しいのか?」
「はいっ是非!!」
「残念、俺も苺は好きなんだ」
「えぇ~、そんなぁ~」
なにこれ和む。
狩屋と神童の微笑ましい会話を、デザートを食べながら聞いていた。
その時、俺は名案を思い出した。
「ちょっと俺、厨房に行ってくる!」
「え…なんでだ?」
「ちょっと、デザート作ってくる」
「え~、今食べたじゃないですか~明日にしましょうよ~」
「今じゃなきゃダメなんだよ、じゃ、」
*
実は俺は、20歳年上のここのシェフと仲が良かった。
もちろん、神童のとこで意気投合したのだが。
狩屋はともかく、神童にはよく効くらしいリキュールを使って、神童が好きな、ビターチョコレートのケーキを作った。
狩屋には、苺をふんだんに使ったタルトをシェフと作った。
もちろん、リキュールを混ぜて。
「ん~…おいしい!!さすがシェフ!!じゃあ、3人分に切って、後で持ってきてよ~!!」
俺はそう言って厨房を出た。
廊下を駆け抜けて、神童の部屋に向かう。
「ふふ、神童と狩屋、喜んでくれるな…」
リキュールを少し味見した俺は、走ることで更に酔いがまわり、ふらつく足で、なんとか歩いた。
*
「え~っと、神童の部屋ってどこだっけ…?」
俺が半ば迷子状態になっているところに、「霧野センパ~イ」と気の抜けた声がただっ広い廊下に響いた。
「あ…狩屋」
向こうから狩屋が走ってきた。あっちが神童の部屋か。
「センパ~イ。神童先輩が待ってますよ~」
「お、おう。分かった」
「早く行きましょ~?」
「あぁ…」
狩屋の気の抜けた急かす声に、俺は笑みを見せて返事を返した。
つづく